翡翠の森
「ジェイダ」
トスティータでは珍しい名前だが、クルルではよくあるのだろうか。
「……祈り子なんて」
どう考えたっておかしい。
祈祷や魔術に頼るのならば、それを生業としている者がいる。
果たして効果のほどは疑問だが、それでも小娘にやらせるよりはいいだろうに。
彼女達に課す、その理由は何だ。
乙女というその処女性が、効果を高めるとでも?
『ロイ』
ゆらゆらと揺れる夢の狭間で、誰かに呼ばれた気がした。
『ロイ』
ああ、やっぱりこの方が落ち着く。
「ジェイダ」
無意識に彼女の名を口にしたのは、アルフレッドの言うようにジェイダしかいないからだろうか。
アルバートなど知らない、第二王子なんてどっちつかずの役割などない、ただのロイ。
そう認識してくれる、貴重な人。
それはもう、側にいるのはジェイダ一人だけだ。
(熱は下がったかな)
トスティータの夜は厳しい。
太陽の国から来た少女には、連日の冷えは辛いだろう。
「君にご加護がありますように」
気候の違いからか、信仰するものも違う二つの国。
(……何だっていいよ。君が元気になるなら)
不謹慎すぎるが、そんなことすら思う。
信心が薄いのがバレバレだ。
けれど――。
(何を崇めるかじゃない。何を思い、何をするかだ)
うつらうつら。
しかし、夢の世界へと落ちることは叶わない。
ロイは諦めて再び目を開け、天井を睨みつけた。