翡翠の森
それは、もうずっとずっと昔――今のジェイダに残されていないはずの遠い日のこと。
・・・
あの頃の兄は、本当に楽しそうだった。
『ロイって言うんだぜ。……ま、親父が勝手につけたんだけど』
『勝手にって……お前だって、つけてやれって言ったじゃないか』
『まあね。でも、喜んでるからいいよ』
嬉しそうに、目をキラキラさせて。
本音を言えば、その子のおかげで構ってくれる時間が減ったから、ちょっと不満ではあるが。
『今度、ジェイダも連れてってやるよ』
『ほんと!? 』
思ってもみない言葉に、ジェイダは思わずテーブルに身を乗り出した。
兄とお出かけなんて、久しぶりだ。
それも、行ったことのない森なんてワクワクする。いつもお留守番なのは、やっぱりちょっと悲しいし。
『ああ。あいつ、男友達だと思ってるからな。ジェイダが現れたら、驚くぞー』
『おい。あんまりロイをからかうな』
父子の会話は、既にジェイダの耳には入っていなかった。
二人とおでかけ。
もしかしたら、大好きな母も一緒に。
そしたら、大好物のあのお菓子も作ってくれるかも。
初めての経験に、ジェイダの胸はドキドキするばかりだった。