翡翠の森
「これまでの合意は、対等な物資の交換、往来の自由化、それから」
夢みたいな宣言だ。
それをまさか、この声で聞くとは。
「――祈り子の廃止を」
誰も何も言わない。
喜んで咎められはしないか、不安なのだ。
「ありがとう、キャシディ」
「お前に言われることではない」
ロイがレジーを引きずりながら、こっちへ戻ってきた。
「そんなことはない。彼女がそう呼ばれることが、僕はどうしても嫌だったから」
差し伸べられた手を見、ようやく気づく。
ジェイダはいつの間にか、地面にへたりこんでいた。
「皆さんも、本当にありがとう」
ついさっきまで敵だった国の、身分ある青年。
彼にいとも簡単に礼を言われ、皆、気まずそうだ。
(私、何をしてるんだろう)
彼を支えるつもりで来たのに、この腕なしには立つことすらままならない。
「大丈夫? 」
この国で、傷を負うのはロイだから。
側で支えたいと思っていたくせに。
(それなら、せめて)
「この国を想ってくれて、ありがとう」
礼儀正しく頭を下げると、彼は首を振った。
「君は、僕にそんなことしちゃいけない」
どうして?
彼はああ言ってくれたのに、自分からのお礼は受け取ってもらえないのか。
俯いたジェイダの顎が捕らえられ、目線が上がる。
「僕らは、同じ目線で」