翡翠の森
この地に立つのに、勇気がいったのはロイの方だ。
夢や理想は素晴らしいが、それ故現実が残酷に思えることもある。
(ずっと、頑張ってきたんだよね)
「ジェイダ? 」
誇らしくて、切なくて、胸がいっぱいで。
堪らず、彼にしがみついた。
「みんながみんな、すぐに気持ちの整理がつく訳じゃないけど……」
ロイの困惑もキャシディの咳払いも、今は気にしない。
「私……私は」
恥ずかしい。
これほど沢山の人の前で、自分からくっついている。
それでもいっぱいいっぱいで、今にも溢れ返りそうだから。
「あなたのことが、大好き」
帰ってきたら、伝えたいと思っていた。
敵だと教えられたあの国で、こんなにも大切にしてもらったことを。
だから、逃げない。
何と言われても、この想いは隠すべきではない。隠したくなんかない。
「……君って、ほんと……」
当然ながら、視線が痛いのだろう。
ロイも動揺を隠せない。
ちなみに、ジェイダは言うだけ言って腕の中だ。
「……ありがとう」
額に口づけられ、ぎょっとして顔を上げてしまう。
今度は少し上の高さで、彼が意地悪く笑っていた。
「え……? 」
どこからか手を叩く音が聞こえ、びっくりして目を走らせると。
「ジン……? 」
そこには、何故か拍手を贈るジンの姿があった。
いつものように呆れているような、それでいて目の端には光るものが浮かんでいる。
「えーと……」
ジン、デレク、いつしか戻ってきていたニール王子。
それから一人、また一人と。
つられるように手を鳴らす。
「……しばらく引っ込めないね」
さすがに照れるのか、ロイが少しだけ責めるように言った。
雨上がりの、澄んだ空気が気持ちいい。
ロイの言うとおり、拍手の音はいつまでも耳に残っていた。