翡翠の森

この地に立つのに、勇気がいったのはロイの方だ。
夢や理想は素晴らしいが、それ故現実が残酷に思えることもある。


(ずっと、頑張ってきたんだよね)


「ジェイダ? 」


誇らしくて、切なくて、胸がいっぱいで。
堪らず、彼にしがみついた。


「みんながみんな、すぐに気持ちの整理がつく訳じゃないけど……」


ロイの困惑もキャシディの咳払いも、今は気にしない。


「私……私は」


恥ずかしい。
これほど沢山の人の前で、自分からくっついている。
それでもいっぱいいっぱいで、今にも溢れ返りそうだから。


「あなたのことが、大好き」


帰ってきたら、伝えたいと思っていた。
敵だと教えられたあの国で、こんなにも大切にしてもらったことを。

だから、逃げない。
何と言われても、この想いは隠すべきではない。隠したくなんかない。


「……君って、ほんと……」


当然ながら、視線が痛いのだろう。
ロイも動揺を隠せない。
ちなみに、ジェイダは言うだけ言って腕の中だ。


「……ありがとう」


額に口づけられ、ぎょっとして顔を上げてしまう。
今度は少し上の高さで、彼が意地悪く笑っていた。


「え……? 」


どこからか手を叩く音が聞こえ、びっくりして目を走らせると。


「ジン……? 」


そこには、何故か拍手を贈るジンの姿があった。
いつものように呆れているような、それでいて目の端には光るものが浮かんでいる。


「えーと……」


ジン、デレク、いつしか戻ってきていたニール王子。
それから一人、また一人と。
つられるように手を鳴らす。


「……しばらく引っ込めないね」


さすがに照れるのか、ロイが少しだけ責めるように言った。

雨上がりの、澄んだ空気が気持ちいい。
ロイの言うとおり、拍手の音はいつまでも耳に残っていた。

< 278 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop