翡翠の森
「……君は、みんなに愛されてるんだね」
帰り際、ぽつりと漏れた声はどこか寂しそうで。
「僕が拐ったりなんかしなくても……誰かが止めに入ったかも」
彼との出逢いを否定されてしまいそうで、ジェイダは急いで首を振る。
「だとしても、あの日ロイに逢えてよかったの」
あんまり急いで言ったのが恥ずかしい。
けれど、彼の言葉を肯定するような間は置きたくなかった。
「もちろん」
ロイの唇が髪に触れる。
杞憂だったようでほっとしたが、それでも恥ずかしさは増すばかり。
特に、兄の視線とは痛いものだ。
「……しっかし。んな、甘ったるい真似してるくせに、何もないとかマジかよ。……ジェイダ、酷いことはされてないな?」
ギロリと鋭い目がロイを見、必要もないのにこれまでを振り返ってしまう。
「え、や、な、ないよ……!? 」
「……そこで挙動不審にならないで。僕が殺される」
(酷いことではない。うん……優しい? いや、意地悪だけど……)
真っ赤になる妹に軽く息を吐くと、レジーが言った。
「ならいっそ、もう少し健全な付き合いを続けてみろ、ロイ」
「……は……? 」
ロイの口許が引きつる。
「もうとっくに、お前のものになったんだと思ってたが。よく考えたら、再会したばかりの妹を食われたくない」
ロイの動きが、完全に停止している。
硬直しきった体に、ジェイダの目も泳ぐしかない。
「……僕に、これ以上耐えろっての? ……あのね、レジー。いくら可愛かった僕でも、成長はするんだよ。無茶言わないで」
(……私を間に挟まないでほしい)
「今は他に考えることがあるから、自制してるだけで。もう少ししたら、僕は普通の男の子に戻るんです! 」
男同士の会話についていけず、ジンにすがる。
「ジン~~っ! 」
彼女に助けを求めると、よしよしと頭を撫でて言うことには。
「お二人とも、続きは男だけの時に。ジェイダへの追及は、私がやりますから」