翡翠の森
「僕こそ。もう会えないのは悲しいけど……でも、来られてよかった」
そう言うと、ロイは地面に片方の膝をつけた。
「……ありがとう。いくら感謝しても足りない」
誰も、何も言わない。
それがロドニーに向けたものだと、知っているからだ。
礼を示す時、彼は決まってこうする。
今まで気にしたことはなかったが、トスティータの風習だろうか。
それでも彼のような身分の人が、墓すらないただの荒れ地に触れるなんて。
「レジーはああ言ってるけど。……どうか、ジェイダとのことを許して」
そして、もう一度目を瞑る。
声にしたのはそこまでだったが、唇が紡ぐのは続きがあった。
――必ず、大切にするから――
「ふん。お袋は喜びそうだが、親父はごねそうだ」
唇の動きが読めてしまい、真っ赤になるジェイダに兄が鼻を鳴らした。
「レジー、それは……?」
パサリと乱暴に投げたのは、ジェイダにも馴染みのある赤い花。
皆見慣れてしまって、今ではあまり好まれないが。それでもどこか、ほっとする。
「昔、よく家に飾られてた。……あの日以来、見るのも嫌だったが」
赤い色は、兄にとって辛い色。
それをこうして手向けてくれたのは、きっと彼も前に歩み出したのだ。
まだまだ、何もかも始まったばかり。
上手くいかないことも、落胆することだってあるだろう。でも、諦めたりしないから。
(……見守っていてね)