翡翠の森
・・・
それは、突然やってきた。
「……ロイ様」
デレクの声がして、慌てて表情を取り繕う。
「……デレク? 」
だが、その必要もないほど、デレクの表情も固い。
「先程、アルフレッド様より報せが届きました。……火急の用だと」
ロイは眉を寄せ、文を受け取った。
何かあったのだろうか。
彼が戸惑ったのは一瞬だけで、すぐさま封を切る。
「……っ」
彼の両目が開かれ、瞬きもせぬままスッと閉じた。
嫌な予感がして、ゆっくりと側に寄る。
内容を無理に聞こうとは思わないが、隣にいてもいいだろうか。
「……ごめん。心配しなくていいよ」
腕に触れても、彼は拒まないでくれた。
安心させるように微笑むのも、やはり痛々しい。
「何かあったのか。火急とは……」
「ああ、いや。そうじゃない。今度のことで暴動が起こったとか、そういうんじゃないんだ。ただ……」
ひとまず、胸を撫で下ろす。
けれど、ロイはその先を言わない。
口を開きはするが、声にならないのだ。
彼は「ただ」と言ったが、その出来事が如何に彼を動揺させているのかが伝わってくる。
「ごめん。これほどよくしてもらって名残惜しいけど、そろそろ帰り支度をしないと」
確かに予定より長く、滞在している。
けれどもそれが、何かが起きたからだとロイの表情が告げている。
「心配はいらない。これからのことに、何の支障も出さない。……むしろ、拍車をかけるかも」
無理に明るい話にしようとする、彼の背中を擦る。
ロイの顔は、それが本心ではないと叫んでいるようだ。
促されたように出てきた言葉に、皆が固まる。
「……父が死んだ」