翡翠の森



・・・


それは、突然やってきた。


「……ロイ様」


デレクの声がして、慌てて表情を取り繕う。


「……デレク? 」


だが、その必要もないほど、デレクの表情も固い。


「先程、アルフレッド様より報せが届きました。……火急の用だと」


ロイは眉を寄せ、文を受け取った。
何かあったのだろうか。
彼が戸惑ったのは一瞬だけで、すぐさま封を切る。


「……っ」


彼の両目が開かれ、瞬きもせぬままスッと閉じた。

嫌な予感がして、ゆっくりと側に寄る。
内容を無理に聞こうとは思わないが、隣にいてもいいだろうか。


「……ごめん。心配しなくていいよ」


腕に触れても、彼は拒まないでくれた。
安心させるように微笑むのも、やはり痛々しい。


「何かあったのか。火急とは……」

「ああ、いや。そうじゃない。今度のことで暴動が起こったとか、そういうんじゃないんだ。ただ……」


ひとまず、胸を撫で下ろす。
けれど、ロイはその先を言わない。
口を開きはするが、声にならないのだ。
彼は「ただ」と言ったが、その出来事が如何に彼を動揺させているのかが伝わってくる。


「ごめん。これほどよくしてもらって名残惜しいけど、そろそろ帰り支度をしないと」


確かに予定より長く、滞在している。
けれどもそれが、何かが起きたからだとロイの表情が告げている。


「心配はいらない。これからのことに、何の支障も出さない。……むしろ、拍車をかけるかも」


無理に明るい話にしようとする、彼の背中を擦る。
ロイの顔は、それが本心ではないと叫んでいるようだ。

促されたように出てきた言葉に、皆が固まる。


「……父が死んだ」
< 292 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop