翡翠の森
「そのような夢を改革とするのなら、成功させねば単なる愚か者の政治です」
そう言い捨てると、突如興味を失くしたようにくるりと背を向けた。
「……キース」
咄嗟に呼び止めたが、何を問えばいいのか。
「……私が仕えるのは、この国です」
キースが先に沈黙を破り、いつかの台詞を繰り返す。
「夢や理想の下に被害があれば、あまりにあまり。影響が出始めるのは、いつだって上にいる者ではない」
ロイのよく知る、抑揚のない喋り方。
「私や父君を愚かだと思うのなら、見せて頂きたい。よもや国が傾こうものなら、誰であろうと許さない」
だが、その表情はどうだろうか。
残念ながら見えないが、きっといつもと違うのだと思う。
薄気味の悪い、信用ならない雰囲気ではない。
しょっちゅう顔を突き合わせていては分からなかったのに、今少しだけキースが笑った気がした。
「……楽しみにしておりますよ」
「ああ。あの状況が正しいなんて、間違っている。……証明してやるよ」
互いに敵だと罵るなんて、愚かなことだ。
あのままでいい訳がない。
(……見てろよ)
キースも父も、見ていればいい。
絶対に、それを認める日はやってくるから。
「是非とも」
今度こそ、キースが去って行く。
だが、今度の声はとても柔らかいように感じた。