翡翠の森
「ジェイダから誘ってくれるなんて、珍しいね」
そんなことが続いた、ある日。
彼女の方から、庭に連れ出してくれた。
公務の合間を縫っての逢瀬は、何よりの時間だ。
「ごめんなさい。忙しいのに」
「いや。休憩したかったし、嬉しいよ」
遠慮することなどないのに、彼女は申し訳なさそうに謝ったりする。
「……もう、ずっと昔のことみたい」
視線を辿れば、いつか二人で座ったあの椅子。
あの時はまだ、お互いが探り合ってばかりで。
口喧嘩も多かったっけ。
「そうだね」
「懐かしい」と言いそうになり、やめる。
何かが引っ掛かったのだ。
(……ジェイダ? )
何かおかしいと思ったが、彼女を呼ぶことも問いかけることもしないでおいた。
「逢い引きは願ったり叶ったりだけど、風邪引くよ。クルルから戻ったばかりで、体がついていけなくなる」
彼女の返事を待たず、手を引いた。
「ロイ」
聞こえないふりをする。
けれど、ジェイダは立ち止まったまま動いてくれない。
「ロイ。こっち向いて」
(……嫌だ)
強い口調ではない。
まるで諭すかのような、穏やかな声だ。
「……なに? 」
(ああ、知ってるさ。……僕はズルい)
初めから察していたのだ。
彼女が頬も染めずに、デートの誘いなんて。
何かが変だと、信じたくないと思っていた。
「ロイ、私……私ね」
細い指が頬に触れ、やむを得ず彼女の方を向いた。
ゾクリ。
目の前にいるのは紛れもなく彼女なのに、それは別人のようだった。
可愛くて、子供っぽいジェイダではない。
大人びた、美しい女性だ。
まるで知らない人みたいで、もう近づけなくなるような。
「――クルルに帰るよ」