翡翠の森

冷戦状態だった二つの国。
交流がないことや、お互いを悪く言い合うことが当たり前になっていた。
そんなのおかしいと思っていても、「あちらのせい」だから仕方ないと放り投げて。


「お礼はいらないって、何度も言ったろ。……特に今は、ちっとも嬉しくない」


吐き捨てるように言われ、胸が圧迫されるように苦しい。


「だって、そうだろ。……僕は君が好きだ。二国の未来は見えてきたっていうのに、僕らはこれ? 」


呼吸ができない。
口を開けても声はおろか、酸素すら上手く取り込めていないみたいだ。

彼の腕が、痛いほど強く抱き締めてくる。
けれど、涙が出るのはそのせいではなくて。
胸が張り裂けそうで、悲鳴を上げてしまいたくなるから。


「ロイ……」


しがみつきたい衝動を必死に堪える。
切り出したのは自分なのに、そんな権利はとてもないと思ったのだ。


(好き)


彼のことが好きだ。
別れを申し出たのではないが、それとほぼ同等であることは分かっていた。
ここを離れれば、それぞれの生活が始まる。

ジェイダはクルルに。
ロイはこの国で、彼に相応しいお姫様と――……。
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