翡翠の森
「……言っておくけど」
強めの口調で言われ、肩が震えた。
この期に及んでまだ、彼に嫌われることを恐れている。
「あれほど至るところで交際宣言しておいて別れるなんて、全然納得してないから」
それを言われては黙るしかない。
皆に彼を紹介して回ったのは、ジェイダの方だ。
「君がクルルに帰ったって、僕は必ずまた君を拐いに行くよ。何度も言ったろ。……僕は絶対に諦めない」
いつしか優しく変化した声音が、新たな涙を作っていく。
「なのに君は、僕のことだけ諦めるの? 僕らの国のことは諦めていないくせに。矛盾してるだろ」
何をしに帰ろうというのか。
二つの国を結ぶ為、架け橋になるなどと大きなことを言ってみせた自分が。
「僕の気持ちを放って、勝手に諦めたりしないでよ。頑固者の君が帰ると言ったら、帰るんでしょ。でも僕だって」
頬を包まれて、思わずその手に重ねる。
「会いに行く。それを可能にするべく、頑張ってきたんだ。すぐには難しくても、必ず。できるだけ早く、君を拐いにいく」
大きくて、あたたかい。
(……そうだったね)
こうして繋ぐ為にここに来たのに。
振り解かないと達成できないと、思い込んでいた。
「ロイ」
「ん? 」
今度こそしがみつく。
こうしてくっつけば温かいのに、すっかり忘れていた。
「大好き」
伝えたい想いを、当の本人にひた隠しにするなんて。
「……遅いの。僕はもう」
――愛してる。