翡翠の森
「でも……私のせいで、余計に何か言われたりは」
大きく首を振って、ジンは続けた。
「もしもそうだとしても、関係ありません。私は誇りに思っている。実を言うと、ジェイダ様に会うまで不安でしたが」
それもそうだろう。
どんな人間か分からないどころか、別の国から来た少女。扱いにくいに違いない。
「もちろん、私情を持ち込むなど、あってはならないことです。それでも、ジェイダ様でよかったと思っているのですよ」
どこを見てそう思ってくれたのか、不思議だ。
彼女に会って一日足らずで、恥ずかしいことばかりしているのに。
「私も、ジンでよかったと思います」
でも、嬉しい。
ロイの人選に、心から感謝した。
「それに、ロイ様にとっても」
「……どうして? 」
だが、いくらジンの言葉でも、それには賛同できない。ロイにとっては、もっといい人がいたはずだからだ。
ボリュームのあるドレスを、喜んで着てくれるような。
プロポーズに感激して、飛び上がるような。
歴代の乙女なら、そうだったのかもしれない。
容姿端麗で何かに秀でた、これぞ祈り子と言われた彼女達なら。
間違っても、せっかく用意した服を捨てて脱走する女ではない。
「ふふ。さあ……けれど、お言葉には本心が含まれていると思います」
冗談としか思えない、甘いリップサービス。
そのどこにロイの本心があるのか、見当もつかない。
「いつか教えてくれるかな」
彼の心に触れる日がくるのだろうか。
「……ええ。ジェイダ様には申し訳ないですが、あの兄弟にとっても、貴女は最良の乙女です」
ジェイダだって、戦争など嫌だ。
そういう意味では、同志だと言える。
ジェイダは曖昧に頷いてみせた。