翡翠の森
ジンが立ち上がり、お茶を用意してくれる。
それを当然のように、座って眺めるのは嫌だった。
「あの……よかったら、様付けで呼ぶのやめませんか? それから敬語も」
彼女は怒るだろうが、やはり主従のような関係は嫌いだ。
手伝いながら恐る恐るそう口にすると、眉を上げて少し試すように言った。
「では、二人の時だけ。それから、この質問に答えることができたら」
何だろう。
彼女とは、もっと仲良くなりたい。
自分には、特に秘密らしい秘密もないから、ジンには何だって答えられそうだけれど。
「ここだけの話。アルフレッド様とロイ様、どっちが好み? 」
それでも、その質問は想定外だ。
お茶を口に含んだ瞬間にいたずらっぽく尋ねられ、ジェイダは激しく咳込んだ。
「うぐっ……げほっ……何、それ!? 」
「だって。ロイ様には悪いですが、案外アルフレッド様とも上手くいきそうな気がするんですよね」
ロイはあの調子だし、アルフレッドに至ってはまともに話もしてない。
どっちもどっちである。
「ジンこそ! 」
彼女こそ、言い寄る男は絶えないだろう。
その中には、彼女自身を見てくれる人もいそうなものだが。
(ジンジャーとか、ジニーとか。バージニア? とにかく、女性名で呼ばれてもいいと、彼女が許す男性はいるのかしら)
訊いてみたいが、さすがに踏み込みすぎだろうか。
その前に、ジェイダの答えが出てきそうにもないけれども。
もごもごしているジェイダに、満足そうに微笑むと、彼女はスッとドアの方へ向かう。
何も聞こえなかったが、来客だろうか。
いや、招かれざる客は自分の方だ。
ここを訪ねてくるなんて、誰だか決まっている。
「おはよ、ジェイダ。まずは約束しよう。興奮して、脱いだりしないこと。いいね」
そう判断する間もなくノックされたことに驚いていると、入ってきたロイは朝の挨拶からそこまでを一気に告げた。
はい、指きり。
反論させないよう続けて、勝手に小指を絡ませて。
「なかなか刺激的だったけど。そういうのってさ、ほら。僕もムードとか気にしちゃうんだよね」
「~~っ、変なこと言わないで !」
叫んだと同時に、ロイの手が額に触れた。
熱がないのを確認して、安心したように笑う。
(……どっちが本当のロイなの)
その優しい笑顔に、それ以上の文句は引っ込んでしまう。
「さて。どこまで話したっけ」
「クルルの王子が、性格悪いところまでだ」
大きな図体で、いつから後ろに控えていたのかアルフレッドまで。
何の支度もなく男二人に挟まれるのは、落ち着かないけれど、そこはもう諦めた。
おちゃらけてはいるが、話の内容は深刻で急を要するのだ。
ここで、照れたり追い出したりするのは憚られた。
半ばなげやりになって座り、遅めの朝食をとりながら話す。
ジンにも勧めたが、彼女は頑なに断ってしまった。
「あ、そうそう。その嫌な奴がね、遊びに来るって。君にも同席してもらいたい」
「キャシディ様と…!? 」
軽い調子で言っているが、当然そんな間柄ではない。つまり、会談が開かれるのだ。
「うん。よろしくね」
早くも目が回りそうになるのを、ジェイダは何とか我慢した。