翡翠の森
キャシディ。
クルルの第一王子。
弟のニールは、まだ5歳と幼い。
実質、キャシディがクルルを担うと決まっている。
ニールが成長した時、キャシディの力が足りなければ別だが、そんなことを言う者はいなかった。
威風堂々としたその姿は、民衆の心を惹きつけるのだ。
(……って、見たことないんだけど)
「私がいていいの? 」
遠くから眺めたこともなかったのに、ほんのすぐそこで顔を見ることになろうとは。
「もちろん。というより、いてくれないと。むこうにとっても、それが目的だろうからね」
目的とはどういうことだ。
誰の目にも留まらずここまで来たと思ったが、もうバレたのか。
「ジェイダがいなくなったことは、きっと耳に入ってるよ。あの森にいたことは、君を探してた男が知っているし。かなりの高確率で、キャシディは突いてくる」
デレクが言っていたではないか。
『一歩間違えば、国家間の問題になりかねない』と。
「お互いが待ってるんだ。攻めるに値する理由ができるのを」
軽蔑を込めて吐かれた言葉に、ピクリと体が反応する。
「そんなこと、させるものか。何度も言うようだけど、僕らの目的は争いじゃない」
――和平を。
「……私はどうしたらいい? 」
震えるのを隠す為に、ジェイダはロイの目をまっすぐに見つめた。
「予定では、キャシディの前で僕とイチャイチャするはずだったんだけど」
こんな時まで出た冗談に、ぐるっと目を回してみせる。
まさか、それも本当などと言わないだろうが。
「……うまくいくよう、祈ってて。残り少ない緑が、消えてしまわないように。そして、できたら……寒さに凍える、この国のことも」
祈りで雨を降らせることは、ジェイダにはできない。それでも平和の為なら。
「もっと、増えたらいいのにとは思う。私達みたいに、普通に話せる人が」
祈れる?
「……十分だよ」