翡翠の森



・・・



歩き出すと、遅れてアルフレッドが隣に並ぶ。
急かされたのはこちらなのに、なぜか兄は何かを探るように止まったままだ。


「今のは、どっちのお前だ? 」

「何が? 」


理由は分かる。その問いの意味も。
だが、答えるのも考えるのも億劫で、ロイは閉めたばかりの扉のことを頭から追いやった。
それに今は、この気配の相手をするのが先である。


「……本気ですか。あのような娘を、お相手になどと」

「キース」


柱の影で見えなかったと、ああ、今気づいたと、満面の笑みを浮かべて足早に寄った。


「本気じゃなかったら、遠路はるばる迎えに行ったりなんてしないよ」

「拐って来たのでしょう」


キースは国王の補佐を務めている。
国王不在とほぼ同義のトスティータを、掌握しようとする男。


「まあね。今度のクルルとの会談には、彼女も出てくれる。その顔で、怖がらせないでね。あ、それから」


そして間違いなく、武力肯定派だ。
というより、考えるのはこの国の実利のみ。
それが保たれ、より拡大するのであれば、何でも肯定するだろう。


「キースなら言ってもいいかなー。僕、まだOKもらってないんだよ。これ、秘密ね」


子供が内緒話をするように唇に人差し指を当てれば、端正な顔立ちが一瞬で歪んだ。
それを見て満足すると、ロイは再び歩き出す。

満足――そうとも。
キースのあの表情を見るのは、気分がいい。
それが、ほんの束の間のことだとしても。


(戦が始まれば、そんなものじゃ済まない。誰もが泣き、絶望し、飢える。どうして、そんなことが分からない? )


その苦しみが改革だと、どうして言えよう。
この守られた城の中で、どの口がほざく?


「落ち着け」


微笑すら浮かべて歩いているつもりだったが、さすがは兄ということか。


「煽られては、マクライナーやキャシディの思うつぼだ」


キース・マクライナー。
国の繁栄を思うあまり、犠牲もやむなしと考える阿呆。


「クルルに王女がいないのが、残念だね」


双方には申し訳ないが、二人が結婚すれば同盟のきっかけにもなるのに。


「あの女が聞いたら怒るぞ」

「勘弁」


むやみに彼女を怒らせたくはない。
それでなくとも、ジェイダからすれば自分は理解不能であるだろうから。



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