翡翠の森
「アルフレッド様! ア……ロイ様! 」
そんな話をしていると、デレクに出くわした。
「デレク。いい加減、さらっと呼んでよ」
「そう仰られてもですな。じいは貴方様がほんの小さな頃から、お世話しているのですぞ。ご幼少の貴方様は、それはもう素直で愛らしい……
「ごめんね。ひねくれて育って」
おしめを替えた時の話は、もう何度聞いたことか。早々に降参したと手を上げた。
「……お気持ちは変わらないのでしょうか」
彼らしくない、聞き取るのが難しい小さな声。
「放っておけば、今ですら痩せたこの地は、もう何も生まなくなるかもしれないよ」
尊いはずの命を吸った大地で、将来皆が幸せになれるのか。
いわくつきの場所で大事な人に愛を伝え、生まれた子供と笑って遊ぶことができるのか。
「デレクももう歳だし。のんびりしてもいいんじゃない」
成人間近のロイには、デレクはうざったい存在だ。
それはまるで、子供が親に感じるのと同じように。
「失礼な! 私はまだ若いつもりです。それに若君が落ち着かれるまでは、おちおち昼寝もできません」
付き合ってくれる覚悟を決めたのだろう。
嬉しい反面、守るべきものもまた増える。
別に構わない。
どうせ、誰の血も流すつもりなどないのだから。
そうは言っても、命じるどころか賛成もできかね。
心の中でお礼を言って、デレクと別れた。
「……ってぇ」
父親代わりの背中を見送っていると、突然、上から頭を叩かれた。
そんなことができるのは、当然彼しかいない。
「だから、落ち着けと言っている。まずはキャシディと会ってからだ。ピリピリしても始まらん」
ぼうっとしているようで、よく見ているものだ。
些細な変化が読み取れる、数少ない味方。
「奴が動けば、当然マクライナーも動く。それも大方想像していただろうが」
それもそうだが、暢気に構えていい問題でもないだろうに。
「他に考えることがないのなら、さっき言ったことを考えてみろ」
「さっきって? 」
何か、検討が必要な話をしただろうか。
「さっき言っただろう。別れ際、あの女を見つめていたのは誰だ? 」
「誰って……」
あの時、ジェイダと話したのは一人だけだ。
アルフレッドは、いつもの如く少し距離を取って二人を見ていた。
――それは誰?