翡翠の森
「……ふざけているのか」
「え? 大マジメだけど」
嘘だ。
ジェイダにしてみれば、今この場でそう叫んでもいいのだ。
そうすればすぐに、クルルに帰ることができる。
「僕としては、愛しい彼女の母国と争うなんて、とても辛い。だからこれを機会に、仲良く……とはいかないまでも、上手くやっていきたいんだ」
なのに、できない。
饒舌なロイが一人浮いているほど、空気はピンと張りつめている。
通常、ジェイダのような娘が立ち入る場所ではないのを痛感した。
圧倒されるばかりで、言葉はおろか声も出ないくらいだ。
「つまり、こんな女を人質にするほど、トスティータは切羽詰まっているのか? 」
国王陛下が臥せっているのは、クルルに漏れているのだろうか。
知っているとすれば、好機と思ってはいないか。
「そっちこそ。女の子一人に頼らざるをえないほど、クルルは危ういのかな? 」
火花が散る。
目を閉じてしまいそうな自分を奮い立たせ、ジェイダは彼らの応酬を見守った。
そして、しばらく睨み合ったのち、やがてロイがふっと目を細めた。
「余計なお世話だろうけど、もっと、現代的な手段を考えてはどうかな。そんな言い方をするくらいなんだから、君も本気で信じている訳じゃなさそうだし」
クルルの人達が、ひゅっと息を呑むのが聞こえる。
皆少なからず、祈り子についてはどこかで懐疑的だと思うのだが、それをキャシディに言うとは。
「余計なお世話だ。仮にそうだとしても、乙女の存在は偶像でもある。いること自体に価値があったのだが」
(“あった”? )
過去形で言われて、気味が悪い。
ドキドキと鳴っていた心臓が、それすら止まってしまいそうなほど苦しくなる。
「……それで? 連れて来た次はどうする? 早々に式でも挙げるつもりか? 見れば、お前の他は渋い顔をしているぞ」
言葉通り、先程の男を筆頭に、ここに集まった者は皆、ジェイダのことを良く思っていないのが伝わってくる。
「だから、恥ずかしいって言ったじゃない。残念ながら、一目で恋に落ちたのは僕だけ。付き合えているんじゃないんだ。クルルの女の子は皆そうなの? ……初心で可愛い」
まるで意味をもたない質問に鼻を鳴らすと、キャシディは続きを促した。