翡翠の森
《ロイが心配? 》
固唾を飲んで見つめていると、突然、どこからかそんな声が聞こえてきた。
《ジェイダは、ロイのこと心配してくれているの? 》
初めて聞く声だが、相手はジェイダのことを知っているらしい。
(……誰……!? )
慌てて辺りを見回したが、不審な人物はいなかった。
それに、その口調はまるで幼い子供みたいで、この中には当然ながら該当する人物はいない。
「(どうしたの? )」
ロイが唇を動かし、音には出さずに尋ねてくる。
《ジェイダにしか、聞こえないよ》
だが、そう訊かれても、ジェイダも何と答えていいのか分からない。
言われてみると、皆、怪訝そうにこちらを見ていて、慌てて何事もなかったかのように視線を王子たちに向ける。
頭は混乱しきっていたが、これだけは確かだ。
(頭の中で、直接聞こえる……!? )
違ったのだ。
これは、誰かの口から発せられたものではない。
とても信じられないことだが、ジェイダの頭に直接語りかけているのだった。
改めて、こっそり一人一人を観察する。
だが、既に皆の目は王子達に向けられていて、誰もジェイダを気にかけている様子はない。
《やだな。ボクの存在、忘れてる? 》
その言葉とともに、彼はひょっこり顔を出した。
ロイのポケットから。
それは、つまり――。
(……マロ!? )
叫びそうになるのを、何とか堪える。
《うん。色々言いたいことはあるだろうけど、時間がないから後で。……ロイが心配? 》
マロは何度も繰り返すが、心配しないはずがない。
そんな当たり前のことを、どうして今この状況で尋ねるのか。
《彼らはクルルの敵だよ。少なくとも、現状は。そして、もしかしたら今後、キミの敵にもなるかもしれない》
それの答えだというように言われ、僅かにたじろぐ。
(……私の、敵……? )
《だって、キミが祈り子に選ばれたのは事実でしょう? ロイを心配することはできても、信じることはできないかも》
この場にいる誰よりも、国を案じている人。
その為に、自分が切り捨てられることがあるのだろうか。だとしても――。
(ロイが心配よ。先のことは分からないけれど、信じてみたい。それは本心だわ)
どうしたって、ロイが不利な話し合いなのだ。
相手がどうなってもいい、キャシディとは違う。
クルルのことも考え、妥協地点を探していては防戦ばかりになる。
それでも、けして負ける訳にはいかないのだから。