翡翠の森
「雨が降っても、いずれまた乾きます。そしてまた、猛暑が訪れる。一方で、トスティータは暖を求めている。助け合うことだってできるはずです」
キャシディは楽しそうだ。
これほどのロイの苦悩を、国の危機と合わせて面白がっている。
言いすぎかもしれない。
言いすぎであってほしい。
けれども、そうとしか見えないのだ。
「お前は歴史を知らなさすぎる。気候も、信仰するものも、何よりも民族が違う。お前だって、ここで嫌な目にも遭っただろう。それは、乙女が思うよりもずっと大きい」
事実だ。
だって、この数日で経験してきたのだから。
でも――。
「でも、言葉は通じます」
きっと探していけば、共通することもあるはず。
「全く通じない国なんて、沢山あるのでしょう? なのに私達は、こうして何の不便もなく話し合える。それは皮肉なことかもしれない。でも、幸運だと思えば……」
諦めることなんて、できない。
ジェイダの想いが強まるほど、入ってきた時よりもずっと穏やかだった顔が歪む。
それでも、目を逸らすわけにはいかなかった。
「……詭弁だな」
そう吐き捨て、今度こそ身を翻す。
「……キャシディ! 」
「……十日後だ。どうせ、父の耳にも入れねばならん。問題なければ、追って使いを出す」
それを見て慌てて、取り巻き達も後に続いた。
トスティータの人間も、どことなく気まずそうに一人、また一人と部屋を出て行った。
「ロイ……」
あからさまに目を逸らされる。
怒っているのだ。
ワナワナと震える体を抑えるように、深く息を吐いた。
「……兄さん。ジェイダを部屋まで送ってくれないか」
「……ああ」
ロイが行ってしまう。
勝手なことをして謝りたかったし、マロのことも相談したい。
(それにもしかしたら、もう十日しか……)
そう思えば、無意識のうちに彼の方へ手を伸ばしていた。
「……ごめん。今、君といたら僕は」
その手を拒むように身を引くと、続きを言うことなくジェイダを置き去りにした。