翡翠の森
噛んだ唇から、うっすらと血の味がした。
あの場でアルフレッドまで声を荒げていては、会談どころではないだろう。
彼は彼で、耐えていたのだと思う。
そんなアルフレッドの前で、泣きたくなんかなかった。
「だから……こんなにも早く、お前の命を危うくしたことが許せないらしい。お前はお前で大変だろうが、察してやってくれ」
ロイは今、どうしているだろう。
だがすぐに、また“アルバート”でいなければならない。
先程、少し垣間見えた“ロイ”は、隠れざるをえないのだ。
「私は行くが。……お前は」
部屋の前まで来ると、心配そうに見下ろしてくる。
「……祈るわ」
今は、それしかできない。
(明日になったら、ロイを訪ねてみよう。会ってくれたら、他に何ができるか、相談しなくちゃ。それに……)
――あと、十日だ。
「……そうか」
ドアノブに手をかけると、アルフレッドが背を向け、
「ジェイダ」
名前を呼んだ。
驚いて振り返ったが、彼はやはり後ろを向いたままだ。
「その前に休め。……疲れたままでは、効果もないだろうからな」
そう言うと、お礼を言う間もなくスタスタと行ってしまった。
(……ありがとう。二人とも)
彼を見送り、そっと自分の胸に手を当てる。
大丈夫。少なくとも、まだ十日ある。
無理やりそう言い聞かせ中に入ると、窓際まで歩く。
ここでは日中も暗いけれど、クルルは今もさんさんと太陽が照りつけているのだろう。
そう思うと、どうしたって怖い。でも、なぜかより不安なのは。
「……ロイ」
笑ってくれなくてもいい。
怒ってくれてもいいから――十日のうちに会ってくれるかな。
そんなことだったりするのだ。