翡翠の森
今はお礼を言っても、彼を苦しめるだけだ。
それに気づくと、尚更会話が続かない。
「……マロの声を聞いたんだね? 」
口を開けたり閉じたりしていると、気を遣ってロイの方から切り出してくれた。
やはり、彼も知っていたのだ。
そういえば、彼はマロをペットではなく相棒だと言っていた。
「あの時は、僕に聞こえないよう遮断していたんだ。ジェイダだけに意思を届けていた」
そんなことができるのか。
いや、子リスがテレパシーらしきものを使えるだけで、考えられないことだ。
そこを受け入れてしまえば、大したことではない気もする。
「マロは何者なの? 」
「自称・森の精霊だって。それ、確かめる術はないんだけどさ。僕も、頭が変になったって最初は本気で悩んだしね」
間抜けな質問に、自分で顔をしかめる。
そんなジェイダに笑うと、肩を竦めた。
「アルフレッドにも聞こえる? 」
「うん。最初、僕がマロと言い合いをしているのを見かけてね。大変だったよ。アルも、僕が狂ったと思い込んでたし。アルがそれじゃ、どうしようもない。渋るマロに喋らせたんだ」
それもそうだろう。
これからは、他人の目に気をつけなければ。
「これで、僕が正常だと証明された。アルはごねたけどね。“私には聞こえていない”ってさ」
冗談ぽく話す、ロイが切ない。
それに応えて、上手く笑えただろうか。
「それに……君に逢えた」
逢うことが「できた」――それは肯定的であるのに、彼もまた苦労して微笑んでみせる。
「マロがジェイダを連れて来た時、本当だったんだってやっと思えたんだ。女の子に会っただけで、おかしいかもしれないけど。これがきっと、二国の未来に繋がる。本気で、そう思ってたんだ」
どんなに失望したことだろう。
やっと逢えた祈り子が、こんなにも平凡な女の子で。