翡翠の森
とてもロイを見ていられなくて俯いた先に、ちっとも中身の減っていない彼のカップが見える。
「なのに、君は」
突然、両手からカップを奪われる。
小さく悲鳴を上げて見上げれば、すぐそこでアイスブルーの瞳が揺れていた。
これまでみたいに、何かを隠すような甘い視線ではない。
それどころか、憎いとすら言われているように見える。――彼は怒っていた。
(……綺麗)
それなのに、喜びすら感じてしまう。
(ロイの色だ)
嫌われたのかもしれない。
そう思えば、もちろん辛い。
けれども、きっと今、ロイの心に触れようとしている。
「君はどうして……そんな想定外のことばかりするんだ」
ぐっと引き寄せたのは、ロイの腕か。
それとも――自分から、近寄ったのか。
青に、吸い込まれてしまう。
彼の腕は、こんなに硬かっただろうか。
ジンにくっついた後だからか、そんなことを考えてしまう。
背中が少し痛むくらい、ロイは力を緩めない。
「ちっとも、なびいてくれないし。あんな格好で飛び出して行くし。あの後、噂で僕が何て言われたと思ってるの」
面白おかしいゴシップになっていることは、想像できる。それは申し訳ない。
「こうしていれば、そうやって赤くなってくれるけど。別に、僕だからって訳じゃない。単に、男に慣れていないだけだろ」
酷い言い草だ。
なぜそんな話になったのか不思議だったが、さすがに黙っていられず口を開くと――。
「……きっと、アルにだって」
僅かに開いた唇の間に、ロイの親指が当たる。
「やっぱり同志なんかじゃなくて、僕のものにしてしまえばよかった。そうすれば、こんな思いをせずに済んだし……君が、命を賭けることなんかなかった」
否定したいのに、喋ることができない。
唇にこれ以上の隙間を作れば、這う指を自ら口内に誘ってしまいそうだ。