翡翠の森
一体、何がどうなっているのか。
頭が真っ白で何も考えられないはずなのに、何とも説明しにくいものがジェイダを襲う。
「祈り子なんて馬鹿げている。なのに君は、マロにそそのかされて、祈り子になってしまった」
そう吐き捨てると、名残惜しそうにひと撫でした後、指を離した。
「……違うわ。私には、そんな力はないもの。マロの言葉を伝えただけ」
「同じことだよ」
他の人にはそうだ。
キャシディやキース。
実際に雨が降れば、大勢の人がジェイダを祈り子だと思うかもしれない。
「雨が降った、その後のことを考えましょう? だって、ロイが私を連れて来たのは、雨を降らせる為じゃないんだから」
でも、ロイが必要としているのは別のものだ。
彼にとっては、ジェイダはただの町娘。
ジェイダにとって、彼がアルバート王子ではないのと同じように。
「それに、ロイ自身が隠していては、本当のロイに触れられない」
今触れているのは、ロイの方だ。
それでも手を伸ばせば、また弾かれてしまいそうで怖い。
「なのに、婚約者なんて言われて……そりゃあ、慣れてはいないけど。知りたいとは、思っているのに……」
(……って、何を言ってるの! )
ロイの反応がない。
ペラペラと喋ったうえに、ボソボソと意味不明なことを言われ、どう思っただろうか。
「……ジェイダ」
強めに抱いた腕も解かれ、更に不安になる。
知ったようなことを言って、嫌になったのかもしれない。
「……参ったな」
そう思ったが、もう一度ロイの手が背中に触れる。
そして撫でるように下りていくと、そっと腰を抱いた。
「……分かったよ。先のことを話し合おう。だけどその前に、もうひとつ賭けをしようか」