翡翠の森
雨は降る。それでも、不謹慎な申し出だ。
皺が寄っていたのか、ロイの指が眉間を突っつく。
「もし、雨が降らなかったら……キスさせて」
何を言い出すのだ。
ロイを知りたいと思うのに、今日の彼の行動は理解不能だった。
「ダメ? 」
可愛く首を傾げる、ロイから目を逸らす。
「……雨は降るもの」
「じゃ、決まりね。それから……」
笑って、再びジェイダから体を退けた。
今度は立ち上がってしまったことに、落胆してしまう。
「雨が降ったら、また抱きしめさせて」
不思議な賭けだ。
賭けというからには、リスクを負っても得るものが大きくなくてはならない。
それなのにロイは雨が降らない方にも賭け、彼に何の利点もなさそうなことを戦利品とするなんて。
「じゃあ、雨が降ったら……もっとロイを教えて」
「……いいよ」
雨が降らない場合など、考える必要はない。降らないと困るどころではないのに。
彼が、雨が降った場合にも賭けたことを追及しないのは、どうしてだろう。
だが、この賭けはジェイダの心を軽くしてくれた。
何が何だか分からなくても、それは事実だ。