翡翠の森
覚えのある会話を繰り返して、気まずくなる。
(どうして、そんな表情をするの? )
まるで、本当に傷ついたみたいに。
以前と異なる反応に戸惑っていると、手を取られた。
「でも、これからの計画を練るには、丁度いい。近づいてこそこそしていれば、それっぽい睦言に見えるかもよ」
それを隠すように、皮肉めいた言葉を添えて。
「……行ってきます」
少し高いところから見下ろす瞳も、意地悪だ。
「はい」
そんな二人に苦笑して、ジンが見送ってくれた。
廊下に出るだけで、凍てつくように寒い。
以前はそこまで思わなかったのに、今は心まで冷えきってしまいそう。
「……寒くない? 」
「……平気」
部屋を出たロイの声は、いつものように優しい。
なのについ、いつまでも尾を引いてぶっきらぼうになってしまう。
「……ごめん、悪かったよ。嫌な言い方だった」
子供っぽいジェイダとは違い、彼はすぐにそう謝罪してきた。
「でもね。何度も伝えてると思うけど、僕はジェイダが好きなんだ。……そりゃあ、皆の手前、多少大袈裟に言っているかもしれないけど。けして嘘じゃないんだよ」
驚きのあまり立ち止まると、困り果てたとロイが笑う。
「なのに、そんなに何度も嫌いとか嫌とか言われたら、意地悪したくもなるさ。君が嫌がることをする、僕が悪いのは分かるけど……男心も酌んでほしいところ」
ふと息を吐いて、手のひらをジェイダへ見せる。
その顔も、広げられた手も。
ジェイダは、まともに見ることができなかった。
お手をどうぞ、お姫様。
子供の頃に憧れた、今では聞くこともないような、古い童話の一幕のよう。
「寒くない? 」
もう一度尋ねられ、伸ばした指先がなぜか震えて届かない。
「……少し」
やっとのことで触れると、すぐにロイの手に包み込まれた。
「外はもっと寒いよ。あんまり長居はしないでいようね」
先程とは違い、素直に頷く間も目はそれを見つめたままだ。
ジェイダの視線の先では、色も大きさも異なる手がしっかりと繋がれ、絡み合っている。
(いつか……これが普通になるといいな)
通りすがりに、奇異の目を向ける人もいる。
それでも今度は、離したいなんて思わない。
少し前を歩き、先にその視線を受けてくれるロイ。
彼もまた、複雑に思いながらも、離さないでいてくれるのだ。
「……ロイ」
「なに? 」
言葉にならずに首を降れば、ふっと微笑んで、冷えた指を擦ってくれた。
そして分かったというように、ぎゅっと握ってくるのだった。