翡翠の森
「さて、到着」
そう言って立ち止まった場所に、ぽかんとしてしまう。
「ごめんね。こんなとこで」
「あ、そんなこと……」
否定してみたが、上手くいかなかったようだ。
彼は笑って、軽く頭を叩いてきた。
ロイには悪いけれど、正直に言えば驚いた。
庭というからには、それらしいもの――ジェイダの想像する、お城という意味では――色とりどりの花畑や、豪華な噴水などを勝手に想像していたのだ。
なんと言っても、ここはトスティータの王城である。
「場所だけは、昔の名残があるんだけどね。花はおろか、芽さえ出るのが難しい。噴水もあるにはあるけど、誰も見たがらないじゃない? この寒さの中」
これが現実。
太陽が強すぎて、枯れてしまいそうなクルルばかりではない。
ここでは植物すらも凍えて、土の中から出てはこれないのだ。
「ごめんね。気分転換にもならないだろ」
この有り様では、庭師も必要ないのだろう。
せっかくの広い空間に、二人の他は誰もいなかった。
「ロイ? 何を……」
突然、上着を脱ぎ始めた彼を呼ぶと、側にあった椅子に被せた。
「長居しないと言っても、立ち話もなんだし。座って」
椅子に触れてみれば、凍っているかと思うほど冷たい。
この寒さの中、野ざらしなのだから当たり前だが。
「でも、それじゃロイが風邪を引くわ」
「僕は慣れてる。前も言ったけど、この押し問答、男として微妙なんだよね。いいから、座りなって」
苛ついたように言われ、ジェイダも負けじと言い返す。
「気温と性別は、関係ないと思う。男の人だって、寒いでしょう? 」
彼の気遣いだと知っているのに。
言ってしまってから、後悔する。
「あぁ、もう…」
面倒だとロイが唸り出した時。
《あぁぁ、もう……!! 二人仲良く、抱き合って座りゃいいじゃないか……! 》
椅子に置かれた服の中で、モゾモゾと動く存在。
「……マロ? 」
《やあ、ジェイダ。思ったより、元気そうでよかった。ごめんね、うちの王子様は、こう見えて奥手なんだ。女の子としては、押すならしっかり押してほしいよねえ。やれやれ》
彼にしては、出口の遠い迷路なのだろう。
やっとのことで脱出すると、そこまで一気にまくし立てた。
《ロイ! ジェイダに夢中で、またボクのこと忘れてただろ。いくらジェイダが女の子だからって、潰されたら一溜まりもないよ! 》
確かにあのまま座っていれば、小さなリスは潰されていたに違いない。
「……ジェイダ、やっぱり座らない? 」
だが、そう言われると何だか複雑だ。
どんなに小さな子供でも、マロには脅威であるとしても。
「……やめとく」