翡翠の森

飛び跳ねて抗議しているマロを見て、はたと気づく。
どうやら、今は三人で会話が成り立っているようだ。


「約束だったよね。先のことを話そう。偉大なる森の精霊様が、助言をくれるだろうから」


さっきはあんな調子だったが、ロイは初めからそのつもりだったのだ。


「……うん。マロ」


少し身を屈めて手を出すと、マロがよじ登ってくる。


「ジェイダ? 」


空いた上着を持ち主の肩に掛ければ、非難めいた口調でロイが呼んだ。


「少しすれば、温まるかも。その……一緒に座れば」


上から降ってくる、視線が痛い。
風に晒されているはずの頬が、熱を帯びている。


「……そうだね」


おずおずと、二人で腰を下ろす。
それも何だかぎこちなくて、最終的には“せーの”で、お尻をつけた形だった。

長いこと使われていなかった椅子は、やはり冷たい。
反射的にビクンとしたジェイダの肩に、ロイが腕を回した。


「もっと寄って。……君の言う通り、実は男も寒いんだ」


したり顔で言う彼に、恐る恐る重みを預ける。
いつの間に移動したのか、マロが膝の上にいる。
人の言葉にするのも億劫だと言うように、子リスはグルルと唸ってみせるのだった。

そして、何のおかげか、二人の体がほんの少し温まった頃。


《よーし、気が済んだね? ピンクのオーラ、出さないでよね!? 》


(……ピンク? オーラ?? )


「……いいから、早くしろよ」


低く告げるロイのトーンは、昨日聞いた声とよく似ている。これが、普段の彼なのだろうか。


(だとしたら、マロはすごいな)


二人が出会って、どれくらい経つのか分からないが、ロイはマロに自分を隠してはいないのだ。


《まず大前提として、雨は降る。考えるのは、その後のことだよ》


そう。雨は降る。
だからやっぱり、あの賭けは無意味だ。


(今、そんなこと考えている場合じゃないでしょう)


意識が、何度もあの場面に戻ってしまう。


《あのキャシディ王子が、約束を全部守ってくれたらいいけどねえ。ロイ、書簡は届いた? 》

「……いや、まだだ。でも、何かしらのものは、すぐ届くと見ている。内容は多少の相違があるかもしれないけど」


さらりと言われた言葉に、ジェイダは掴みかかりそうになる。


< 63 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop