翡翠の森
飛び跳ねて抗議しているマロを見て、はたと気づく。
どうやら、今は三人で会話が成り立っているようだ。
「約束だったよね。先のことを話そう。偉大なる森の精霊様が、助言をくれるだろうから」
さっきはあんな調子だったが、ロイは初めからそのつもりだったのだ。
「……うん。マロ」
少し身を屈めて手を出すと、マロがよじ登ってくる。
「ジェイダ? 」
空いた上着を持ち主の肩に掛ければ、非難めいた口調でロイが呼んだ。
「少しすれば、温まるかも。その……一緒に座れば」
上から降ってくる、視線が痛い。
風に晒されているはずの頬が、熱を帯びている。
「……そうだね」
おずおずと、二人で腰を下ろす。
それも何だかぎこちなくて、最終的には“せーの”で、お尻をつけた形だった。
長いこと使われていなかった椅子は、やはり冷たい。
反射的にビクンとしたジェイダの肩に、ロイが腕を回した。
「もっと寄って。……君の言う通り、実は男も寒いんだ」
したり顔で言う彼に、恐る恐る重みを預ける。
いつの間に移動したのか、マロが膝の上にいる。
人の言葉にするのも億劫だと言うように、子リスはグルルと唸ってみせるのだった。
そして、何のおかげか、二人の体がほんの少し温まった頃。
《よーし、気が済んだね? ピンクのオーラ、出さないでよね!? 》
(……ピンク? オーラ?? )
「……いいから、早くしろよ」
低く告げるロイのトーンは、昨日聞いた声とよく似ている。これが、普段の彼なのだろうか。
(だとしたら、マロはすごいな)
二人が出会って、どれくらい経つのか分からないが、ロイはマロに自分を隠してはいないのだ。
《まず大前提として、雨は降る。考えるのは、その後のことだよ》
そう。雨は降る。
だからやっぱり、あの賭けは無意味だ。
(今、そんなこと考えている場合じゃないでしょう)
意識が、何度もあの場面に戻ってしまう。
《あのキャシディ王子が、約束を全部守ってくれたらいいけどねえ。ロイ、書簡は届いた? 》
「……いや、まだだ。でも、何かしらのものは、すぐ届くと見ている。内容は多少の相違があるかもしれないけど」
さらりと言われた言葉に、ジェイダは掴みかかりそうになる。