翡翠の森

「……っ、でも! キースさんだって、反故にはするなって……」

『無論だ』

キャシディはそう言ったのに。
人の命まで持ち出しておいて、内容を訂正するなど信じられない。


「まあね。でも、何しろクルル王はお元気でいらっしゃる。キャシディが言ったように、さすがに全権を与えることはしないだろう」


憮然としているジェイダの肩を、そっと撫でた。


「それにね。たとえ、あれが全て実現したとしても、君を代わりにしていいはずがない。……僕は、今でも怒ってる」


怒鳴ることはないけれど、周りの空気が一気に冷えた気がして、思わず俯いてしまう。


《しつこい男は嫌われるよ。……まあ、そういう訳で、雨が降っても思うように進展しないことも予想される。それどころか、クルルはキミに、更に要求してくるかもしれない。“雨をもっと降らせろ”って》


さも当然、といった二人に、ジェイダは自分の浅はかさが恥ずかしくなった。


「だからこそ、そんなこと思いもよらないような、君と議論したかったんだ。……そういう意味では、君が祈り子で……」


――よかった。


その一言を飲み込む。
肯定などできないと、悲しげに笑って。


《……残念だけど、そう頻繁に雨は降ってくれない。そうなれば、調子のいい人間は、怒りをジェイダに向けるかもしれない。トスティータに寝返った、なんて言う奴が現れるかも》

「……だから、ふざけてるって言うんだ。女の子一人に背負わせた挙げ句、罪を着せるなんて。大体、貴い方々は何をやってる。争う方法を考える頭と人員があるなら、他にやるべきことがあるだろ」


ロイの言葉が荒くなっていくと同時に、肩に置かれた腕も強めに抱き寄せてくる。
まるで、何かからジェイダを守るように。


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