翡翠の森
《だから、止められる。再び二国が手を取り合えば、事態はきっと良くなる。元々は、そんな幸運な国なんだ。なのに、もう何百年も終わらない。このままだと、もう百年》
神の怒りに触れたのか。
いや、神が教えようとしているのか。
もちろん、マロの言うように、人にはどうすることもできない事象は多い。
特に自然界においては、ほぼ無力なのかもしれない。
けれども、ほんのすぐ隣。
陸続きにある国が、正反対の気候に悩まされるとは不思議なことだ。
そんな長年の苦しみから、互いに譲り合うだけで解放されるのなら。
それは本当に、幸運なことだ。
「させる訳がない。僕がいるうちは、最善を尽くす。特に今は、ジェイダがいてくれるしね」
彼は、架け橋だ。
クルルとトスティータを繋ぐ、生命線。
きっとこの先、ロイが救うものは沢山ある。
(それなら、ロイ自身は……? )
「大精霊の前で言うのは、憚れるけどね。僕の個人的な意見としては、たとえ互いの国で厳しい気候が続いたとしても、大したことじゃない。そんなことすら、思ってるんだ」
人間が争うから、異常気象が起こるなど、誰が思いつくだろう。
むしろそれが原因で、争いが起きるのだと思っていた。
「ごめん。言い過ぎだね。僕が言いたいのは……この異常な天気が続いたとしても、二国に友好関係が結ばれれば、ずっと改善できるってこと」
ジェイダの視線に苦笑すると、ロイはそう訂正した。
「もっと他に考えるべきことが、山積みなんだ。たとえばさ」
クルルが水不足で困るのならば、トスティータから水を届ける手段を。
トスティータで植物が育たないのなら、太陽の国でしか採れないような食物を。
お互いが分け合い、新鮮なまま、人の手に渡せる方法はないのか。
「難問かもしれない。でも、どう有利に攻めるかなんてことより、ずっと有意義で……切羽詰まった問題だよ」
ロイは、暢気な第二王子などではない。
無知なジェイダにしてみれば、彼が国をまとめてもいいのではないかと思う。
「ここは、マロと平行線。目的は同じだから、構わないけどね」
マロの願いは、国が再びひとつになって、平和と恵まれた自然を取り戻すこと。
ロイの目的は、そこまでいかずとも、お互いが助け合い、共存できること。
どこまで、人ではない存在を信じるか……になりそうだが、確かに行き着くところは同じ平和だ。
「それ、そのまま話したらだめなの? 」
「それじゃ、本当に祈り子だよ。今後もし、本当に異常気象が起きた時にまた乙女を選んだんじゃ、繰り返すだけだ」
自分のいない、何十年、何百年先のことまで、ロイは見据えている。
(唯一の救いは、祈り子なんかじゃない。この百年のうちに、ロイがいたことだわ)