翡翠の森

「それに、キースの動きも気になる。分かってるだろうけど、奴には気をつけて。この先、僕の名前を出して、君を惑わすこともあるかもしれない」


キース。
彼は、ロイの心など見てはいないのだ。
それどころか、その尊い想いさえ、利用しようとする。


「それが、僕の言葉じゃないなら。信じたりしないでくれ」


声に焦りが感じられ、ふと不安になる。
まるで、ロイがここにいない時がくるみたいな言い方だ。

返事がないのに焦れたのか、ロイの指がくいっと顎を持ち上げる。
彼が必死で何かを伝えようとするのに、場違いに胸がトクンと音を立ててしまう。


(……こんな話なのに。ロイに失礼! )


自らを叱っても、聞き分けのない胸は早鐘を打つばかり。


《あー、あー、あー。見てらんない。キミ達、本当にボクを、ただのリスだと思ってるでしょ。勘弁してよ》


小さな手で目を塞ぎながら、大精霊はふてくされたように寝床に帰るのだった。

顔を見合わせて、どちらからともなく笑う。


「あのね」


意味のない言葉を一言おいて、ロイを見上げる。
何と言っていいのか、気持ちが上手くまとまらない。それでも、伝えたいと思った。

青い瞳が、ジェイダを捉えている。
けれど、唇は閉ざしたままだ。
ジェイダから伝えられるよう、待ってくれている。


(きっと、ロイは誤解してる)


いや、そうではない。
誤解されたくないのだ。


「私は多分……その、優しい王子様が苦手……なんだと思う」


肩を竦めて、自嘲するように微笑むロイに、急いで続けた。


「でも! 時々見える、ロイのことはその……」


見開かれた、アイスブルーが眩しい。
とても見つめ返すことなどできないし、声もだんだん萎んでしまう。


「好き……だと思うの。だから、雨が降ったら……」


――ロイを教えて。


だから、あのような交換条件が口を突いたのだ。


「そうだね。雨が降ってのお楽しみ」


そんな場合じゃないのに。
なのに、それを頼る自分は、なんて意気地無しで狡いのだろう。



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