翡翠の森
無表情に読み上げる使者を、思い思いに眺めていた。
同じく表情を変えない者。
どう返答すれば得策かと、思考を駆け巡らせる者。
「誠意ある回答、感謝するよ。でも、言ったと思うんだけど、今の僕らは愛し合っているとはちょっと言えない。まだ僕の片思いだからね。強引に結婚、とはいかないんだ」
笑みを湛え、すぐさま口を開く者。
「……はぁ」
馬鹿にしているのを隠すことすらしない使者に、ロイはますますにっこりする。
「それにね。僕は祈り子を好きになったんじゃない。たまたま彼女が、クルルの乙女なんて呼ばれていただけだ。だから、偽物も本物もない。天気なんて関係なく、大事に思っている。もしも雨が降らなくても、僕はもう、返せないよ」
だが、男も『はい、そうですか』と帰る訳にはいかない。
当初の賭けでは、よくいってクルルに連れ戻されて、悪く見積もれば――処罰されることになっていたのだから。
「今回の会談の目的は、祈り子の真偽を確かめることじゃない。断絶された国交を、繋ぎなおしたい。その申し出を、クルルが受けてくれるか。はたまた蹴ってしまわれるのか。そんな単純なことなんだ」
“蹴る”という単語を強めに発音し、ロイが男を見下ろす。
「お互いにわだかまりがあるのは、理解している。今憎しみを教えられた子供は、成長してまたその子供に伝えてしまう。……そんなの、終わりにしないか。兄は無理でも、僕の頭なら喜んで下げるよ」
なのに下手に出られ、男が訝しげに見上げた。
下げろ、と言いたそうな男の顔に、ジェイダが顔をしかめて不快感をあらわにする。
「……おやめ下さい、アルバート様」
言葉は丁寧であるが、キースが威圧的に制止してきた。
「お騒がせの第二王子の頭に、そんなに重いものは乗っていない。僕はジェイダが欲しいのだから、どうせいつかはそうするんだし」
(プロポーズも和解の提案も、どちらかが手を差し伸べなくては、始まらないじゃないか)