翡翠の森
だがそれは、弟としてのロイの感情とは別物だ。
「僕が代わってあげることはできないし……たとえ、できたとしても嫌だから」
もちろん、アルフレッドもよく理解している。
「ひねくれ者にしては素直だな。そこは普通、“代わってあげられるものなら、代わってあげたい”というところだろう」
もうずっと昔、恐らくは彼らが幼いころから、受け入れてきたこと。
他の選択肢など、お互いにもってはいないのだ。
「……ごめん」
(……ロイも辛いだろうな)
優秀な弟がいれば、政権争いの道具になりかねない。
彼の適当にも聞こえる言い回しや態度は、それを防ぐ為についた癖ではないだろうか。
勝手な想像は失礼だが、ジェイダにはそう思えて仕方がなかった。
「きっとまた、大きな一歩になると思うわ」
口を出しては駄目だと思っていたのに、二人の様子につい漏らしてしまった。
「当たり前だ。……お前にも、苦労をかける」
表情の変化に乏しいアルフレッドに微笑まれ、驚きを隠せない。
「ジェイダを口説かないでくれる? 」
「……ふん」
言われて気がついたのか、アルフレッドがそっぽを向いた。
「あ、でも。笑顔の練習とかしておいた方がいいかも」
正式に王座に就いた際は、民衆の前で手を振ったりするのだろうか。
無理に話題を変えようとすると、この場には相応しくないものになってしまい、後悔する。
「確かに。やっといた方がいいよ、アル」
「……うるさい」
馬鹿な考えだったが、ロイは楽しそうに笑ってくれた。
(きっと……ううん、必ずいい方向に向かう。その日を見られるんだから)
重苦しい空気を何とか払おうと、じゃれ合う兄弟をジェイダも笑って見守っていた。