翡翠の森
「最後まで聞いて。……嬉しかったんだ」
優しく言われたのに、何かを探るようにロイを見てしまう。
いつものような、お世辞や社交辞令ではないかと。でも、それを知ってどうしようというのだろう。
「そんな……」
「そんなこと、言われたことなかった。王子だからこそ、僕なんだろうと。それは真理だ。……でも」
ジェイダを遮り、ロイが続ける。
「違うと言ってくれる、むちゃくちゃな君に逢えて……よかった。祈り子だったことを、喜ぶことはできない。それでも、僕は心の中で感謝してしまってる」
こんなに鳴っても、心臓は壊れないのだろうか。
そう心配してしまうほど、鼓動がうるさい。
「むちゃくちゃって……」
「やることなすこと、ね。自分でもそう思うでしょ」
酷い言われようなのに、ジェイダは喜んですらいるのだ。
「ほらね」
返事がないのを、否定できないからだと受け取ったらしい。
いつの間にか、得意そうにしているロイの袖を握りしめていた。
何をやっているのか、ジェイダ自身分からない。それでもただ、ぎゅっと。
「ジェイダ? 」
「あ……あの時は、ロイのことを全く知らなかったもの。それに婚約してほしいけど、浮気してもいいなんて……。ロイこそ、むちゃくちゃだったと思う」
あの話を蒸し返して、どうするというのか。
ロイを引き留めようとする手は、その後何を望んでいるのか。
確かに、あの時、腹が立って飛び出していた。
失礼だとも思ったし、自分のことを好きとも嫌いとすら感じない男性からの求婚。
何から何まで、むちゃくちゃだった。
でも――もし、今、ロイから同じことを言われたら?
(今も、あんなふうに思ってるのかな)
対外的に仲良くしていれば、他に恋人がいてもいいなんて。
「ごめん。ジェイダに好きな人がいたら、返さなきゃと……余計な気遣いだった? 」
「うん」
力強く頷いたのが、恥ずかしい。
だが、ロイは笑わなかった。
「よかった」
微妙な雰囲気だ。
ポケットの中で、マロが悪態を吐いている姿が目に浮かぶ。
「もっとマシなプロポーズを考えておくよ。……まずは、その為に環境を整えておかないとね」