翡翠の森
「……何で話しかけたんだ」
「いけなかったかな? 」
父ともそう変わらない年齢に見えるが、首を傾げる様子はまるで同い年の少年のようだ。
「……敵に話しかけるなんて、変だ」
お互いが、目印の沢山ある敵。
それがどうなったら、こうして隣り合っておしゃべりすることになるのか。
「そうは言うけどね。生憎僕は、君みたいなちびすけに、何をされた覚えもない。それとも、僕は君に恨まれるほどのことをしたかい? 」
反論できなくて、初めて気づく。
――恨む理由は、どこにもない。
少なくとも、彼個人には。
「それはそうと。こんなところに一人で、どうしたの」
「……」
答えることができない。
ここに来た理由も、立場も。
自分の名前すらも。
けれど、ロドニーは怒らなかった。
「……ここは綺麗だね」
「そうだろう!? 」
下手な誤魔化しにも、目をキラキラさせて。
(……子供みたいだ)
「ここは、素晴らしい場所だ。クルルにもトスティータにもない、恵まれた土地だよ。これを共有できないことが悲しくて……悔しかった」
どうして、そんな発想に至るのだろう。
放っておけばいいではないか。
クルルのことも、トスティータのことも。
ましてや、異なる容姿の子供のことなど。
「だから、来てくれて嬉しいよ。もしも、家族が許してくれたら……またおいで」
寂しそうに微笑むロドニーを見て、悟る。
もう会えないと思っているのだ。
今日はたまたま迷い込んで来たけれど、次は必ず見咎められると。
「……そんなの、いない」
デレクのことが頭を過ったが、アルバートは振り払った。
もしも自分が、ただのちびすけだったなら。
彼も側にはいてくれないだろうから。
「……そうか。でも、いいかい? 絶対に、誰かに言ってから来るんだ。急がなくても僕はここにいるし、君と同じくらいの子供もいる。……いつか、会えたらいいね」
何度も念を押すロドニーから目を逸らすと、アルバートは駆けた。
優しい黒い瞳から逃げたのだ。
初めて見る父親の慈しみが、泣きじゃくりたいくらい痛かった。