翡翠の森



・・・



「アルバート様! 私を殺すつもりですかっっっ!!! 」


キーン。
両手で耳を塞いでもなお、デレクの大声は凄まじい。


「……ピンピンしてるじゃないか」

「いいえっ!! 十年は寿命が縮みました! 」


デレク本人は既にじいや気分であるが、彼はまだ若い。
何よりそんなに元気なら、十年くらい何てことない気がする。


「あまり、デレクを心配させないで下さい。……私の大事な若君」


抱き締めてくれる手が、震えている。


「冗談ではないのです。……本当に、死ぬかと思いました」


聞いたことのない、デレクの小さな声。
王子がいなくなれば、叱責を受けるからではない。
心から心配してくれたことに、申し訳ないと同時に喜びが生まれる。


「……ごめんなさい、デレク」


『ちゃんと言ってから、来るんだよ』


ロドニーはそう言ったが、話してしまえば、もう二度とあの森へ行くことは叶わないだろう。


「デレク……」


だからこそ、また勝手に抜け出すつもりでいたのだ。


(……くそ)


最初は。
なのに、できなくなった。
王子である自分の肩を、痛いくらい掴むこの手を裏切れない。


「友達ができたんだ」


かなり語弊があるが、まずはそう切り出すこてにする。


「それは良うございました。……ご身分は」

「言ってない」

「そうですね。知れば、その子も気を遣うでしょう。何より、アルバート様に危険が及んではいけませんから」


賢明だったと、にこにこするデレクから視線を外す。


「でも、バレてた。さすがに、王子だとは思っていないだろうけど」

「まあ、お召し物などのせいもあるのでしょう。しかし、聡い子供ですな」


そしてそっぽを向いたまま、意を決して口を開く。


「……大人なんだ。多分、父上と同じくらいの」

「……は……」

「……クルルの」



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