翡翠の森
「……な……なん、ですと……? 」
デレクの頬が、ピクピクとひきつる。
お得意の大声すら、今は出ないらしい。
「ま、まさかとは思いますが、その男と会ったのは……」
「……禁断のも
「アルバート様!! 」
名前の呼び方も、いつもの悪戯がバレた時とは違う。
「あの森には近づかないで下さいと、何度申し上げましたか! 何もなかったから、よかったようなものの……」
「何かするつもりなら、私を帰したりするものか」
「……ですが、相手はクルルの人間です。こちらが何もせずとも、我らにいい感情はもっていないのですよ」
デレクも、周りと同じことを言うのだ。
教育が同じなのだから、当然かもしれない。
それでも、アルバートは落胆した。
「……そんなふうには見えなかった。それによく思っていないのは、デレクも同じじゃないか」
『君みたいなちびすけに、何をされた覚えもない』
ロドニーはそう言った。
「何もされていないのに、嫌うなんて変だ」
「……アルバート様」
『先の大戦で』
――いつだ。
父や先生はしきりに口にするが、それを見た人間はとうにいないというのに。
もちろん、いつの時代も戦争はおぞましい。
多くの尊い命のもと、今生きていることはけして忘れてはならない。
(……でも)
ロドニーのダークアイは、容姿の違いなど見てはいなかった。
そこにあったのは、ただの幼い子供に向けた慈愛の目だったではないか。