翡翠の森
それから、幾日森で過ごしただろう。
あの穏やかな場所では、腹を立てるのも難しい。
時折、森でもデレクが笑顔を見せてくれるようになった頃。
『何で、そんな奴なんかと』
その意味を理解するのに、随分と時間を要した。
胸をぎゅっと握り潰されるような。
頭を鈍器で殴られたような。
けれど、アルバートは言葉の主を責める気にはなれなかった。
もちろん傷ついたが、一番苦しいのは彼のせいではない。
きっとどこかで、自分も同じように人を判断していたのだと、思い知らされたからだ。
――パンッ。
アルバートが差別の色を飲み込むよりも、デレクが非難の声を上げるよりも早く。
静かな森に、頬を張る音が鳴り響いた。
「……ロドニー」
少年が頬を押さえて、父親を睨んでいた。
「謝れ」
恐る恐る呼ぶアルバートの声など、今のロドニーには届かない。
「謝って済むことじゃない。それほどのことを、お前は口にしたんだ。レジー」
アルバートより、五つほど歳上だろうか。
実兄のアルフレッドと同じくらいに見えるが、それにしてもまだ子供だ。
「いいよ、ロドニー」
引っ叩くなんて、やりすぎだ。
レジーにしたって、それが正しいとどこかで習ったにすぎないのだし。
「駄目だ。親として人として、見過ごせるものじゃない」
(……父親)
悪いことは悪い。
嫌いだから怒鳴るのではなく、愛しているから怒るのだ。
そんなこと、考えたこともなかった。
「それに、君は大事な友人だ。侮辱されて、怒らないはずがないだろう? 」
そう言って、大きな手が金色の髪を優しく撫でた。