翡翠の森
・・・
「いいお父さんだね」
「……そうか? 」
「うん。……羨ましいよ」
どんなに無茶をしても、わがままを言っても。
あの城でのアルバートは、好きにさせてもらえていた。
(放っておかれたんだ)
「デレクさんだって、いい人じゃないか。優しそうだし」
「まあね。うるさいけど」
「こっちだって、そうさ」
すぐさま同調したレジーを驚いて見ると、彼も丁度、同じようにこちらを見ていた。
「……ごめん」
「ううん。みんな、同じだ。レジーだけが悪いんじゃない」
こうして話してみれば、彼もまたいい人だ。
偏見を捨てて接すれば、大半は善人である。
それはきっと、どこの国でも同じことなのだ。
「お前、名前は? 」
(……もう、名乗ってもいいかな。でも)
どうしても、嫌だった。
彼らに、名前を教えることがではない。
(アルバートは、王子様の名前だ)
それは、この心の奥にいる自分を指した名前ではないから。
「……つけてよ、ロドニー」
「……何だって? 」
吃驚している父親とは違い、何故かレジーは追求してこない。それどころか、こう賛同してくれた。
「つけてやれば、いいじゃん。こいつがそう言ってるんだし」
「……しかし……」
父親は困り顔でデレクに助けを求めたが、不思議なことに、彼の反応もない。
「レジーもロドニーも、Rがつくね。……僕にも、そんな感じでつけて」
(……もう二度と、会えないかもしれない)
ここに一生いられる訳ではない。
“療養生活”が終わり、何らかの役目が発生すれば、王都に戻ることになる。
少なくともしばらくは、彼らに会えなくなるのだ。
「あなた方が呼ぶだけです。……問題ないでしょう」
予想に反してデレクが見逃してくれたことで、ロドニーも諦めたらしい。
「Rか。そうだな……」
胸がドキドキしてきた。
目を輝かせて待っていると、大きな手がいつもみたいに頭をわしわしと撫でる。
「ロイ、なんてどうかな」
「ロイ……」
「気に入らないかい? 」
ロイ、ロイ。
何度か繰り返すと、それはもう、自分の名前。
「ううん。ありがとう、ロドニー」