翡翠の森



・・・


「いいお父さんだね」

「……そうか? 」

「うん。……羨ましいよ」


どんなに無茶をしても、わがままを言っても。
あの城でのアルバートは、好きにさせてもらえていた。


(放っておかれたんだ)


「デレクさんだって、いい人じゃないか。優しそうだし」

「まあね。うるさいけど」

「こっちだって、そうさ」


すぐさま同調したレジーを驚いて見ると、彼も丁度、同じようにこちらを見ていた。


「……ごめん」

「ううん。みんな、同じだ。レジーだけが悪いんじゃない」


こうして話してみれば、彼もまたいい人だ。
偏見を捨てて接すれば、大半は善人である。
それはきっと、どこの国でも同じことなのだ。


「お前、名前は? 」


(……もう、名乗ってもいいかな。でも)


どうしても、嫌だった。
彼らに、名前を教えることがではない。


(アルバートは、王子様の名前だ)


それは、この心の奥にいる自分を指した名前ではないから。


「……つけてよ、ロドニー」

「……何だって? 」


吃驚している父親とは違い、何故かレジーは追求してこない。それどころか、こう賛同してくれた。


「つけてやれば、いいじゃん。こいつがそう言ってるんだし」

「……しかし……」


父親は困り顔でデレクに助けを求めたが、不思議なことに、彼の反応もない。

「レジーもロドニーも、Rがつくね。……僕にも、そんな感じでつけて」


(……もう二度と、会えないかもしれない)


ここに一生いられる訳ではない。
“療養生活”が終わり、何らかの役目が発生すれば、王都に戻ることになる。
少なくともしばらくは、彼らに会えなくなるのだ。


「あなた方が呼ぶだけです。……問題ないでしょう」


予想に反してデレクが見逃してくれたことで、ロドニーも諦めたらしい。


「Rか。そうだな……」


胸がドキドキしてきた。
目を輝かせて待っていると、大きな手がいつもみたいに頭をわしわしと撫でる。


「ロイ、なんてどうかな」

「ロイ……」

「気に入らないかい? 」


ロイ、ロイ。
何度か繰り返すと、それはもう、自分の名前。


「ううん。ありがとう、ロドニー」





< 89 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop