翡翠の森



・・・



目を開けると、見慣れた部屋だ。
緑の森も、暖かな空気もない。
レジーも、ロドニーも。

そこまで考えて、自分の頬が濡れていることに気がついた。


(泣いていたのか、“僕”は)


大の男が、悲しい夢を見て泣くなんて。


(……いや。幸せな夢だった)


デレクがいて、もう一人の父と兄がいて。
何も持たないちびすけに、愛情と名前を授けてくれた。

あれから何度も、ロイはあの森を訪れた。
そして、城へ戻ることが決まった時も。

だが、別れの挨拶は叶わなかった。
ほんの前日まで、二人とも来てくれたのに。
何故かその日を境に、彼らに会うことはできなくなった。

ロイは待った。
ただただ、親子の姿を。
待てども待てども、けして来てはくれなかったけれど、待つこと自体は苦ではなかった。
ロイにとって本当に悲しいのは、二人はもう来ないと、認めることだったから。

何の理由もなく彼らが会ってくれないとは、どうしても考えられない。
ロドニーは二国の現状を憂う一方で、トスティータの子供との交流を、心から楽しんでくれていた。
もしかしたら、誰かに見つかって咎められたのかもしれない。


「……どうか、元気で」


恐らく、あの森に立ち入ることができなくなった事情があるのだ。
何しろ、禁断の森と言われるくらいであるし。


「そして、見ていて」


クルルとトスティータの未来を。
そう遠くなく、必ず実現してみせるから。

ああ、そうだ。
ジェイダのことも紹介しないと。


(僕がジェイダを連れて来たら、びっくりするかな。それとも、やっぱりって思う? )


その時は彼女の隣で、自信をもって言うのだ。


(彼女が僕の……)

《……ロイ》


思考を遮られ、驚いて暗闇に目を凝らす。


「ごめん。起こしたね」

《ううん。そうじゃない》


普段のマロは食事をするか、眠っているか、文句を言っているかである。
大人しく起きているなど、珍しい。


《……降ったね》

「え……? 」

《クルルに雨が降った》




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