翡翠の森
王妃




・・・


ロイが訪れる、その日の朝のこと。
ジェイダはまだ夢の中にいた。

子供の声がする。
金髪にアイスブルーの瞳が美しい。
何もないただの森で、彼は楽しそうに笑っていた。
側にいるのは、父親だろうか。
短い腕を懸命に広げて、彼の腰にしがみついている。


『こら、落ち着いて。僕はどこにも逃げないよ』


だが、違った。
足下から辿ってみれば、一目瞭然。


(クルルの男性。それに、あれは……)


この前の夢で、男の子を追いかけていた人だ。
二国の有り様に怒り、嘆いていた。


(仲良しになったのね)


夢だというのに、本当の親子に見える彼らが嬉しい。


(こんな未来が、早くこないかな。ロイがすごく喜びそう)


そういえば、あの子は何となくロイに似ている。


(……やだな。私ってば)


何の気ない考えに、この光景がいっそう愛しく思えるなんて。


「……あ……」


心の声が漏れたのか、男がジェイダを見て微笑みかけた。


『……大丈夫』


君達なら、きっと。




< 92 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop