翡翠の森



・・・



「あ、わわっ」


目を開けると、何かのアップ。
勢いあまって、それを投げ捨ててしまった。


「……っ、はぁ、なんだ……」


落ち着いて放り出した先を覗き込むと、そこにあるのは可哀想なテディベア。


(……私って……)


ぬいぐるみとキスしそうになったからと言って、一体何をそんなに慌てているのか。
しかも、自分から勝手に抱きついておきながら。


「ごめんね」


謝りながら拾い、ひと撫でする。
どことなく怒っているように見えるのは、気のせいだろうか。


「おはよう、ジェイダ。朝食の準備をするわね」

「ありがとう」


言葉はかなり砕けてきたものの、ジンはまだ譲ってくれない。
諦めて待っていると、話し声が聞こえてきた。

ロイの声だ。
すぐに分かったことにまた照れたが、どうしたって彼の声に間違いない。


(急いでいるのかしら)


男性に取り次ぐまで時間が必要な、お嬢様ではない。


「ロイ? 」


だがやっぱり、支度を終えたとはいえ起きがけに彼に会うのは気恥ずかしい。
まるで、今気づいたふりをして顔を出すと、そのままその腕の中に引きずり込まれてしまった。


「え、あ、あの」


説明を求めて見上げたのに、ロイの目とぶつかって急いで下を向いた。

どうしてだろう。
色も形も夢で見た少年とそっくりなのに、今は何故か、あのクルルの男性と似て見える。
優しくてあったかで、ほんの少しだけ、泣きそうな。


「……雨が降ったよ」


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