翡翠の森
エミリア・ゴールウェイ。
ロイによれば、もちろん大変な名家なのだそうだ。
王妃候補に名前が上がっただけで、想像もつかないくらいの家柄に違いない。
しかし、ジェイダはエミリア自身に興味があった。
信用しすぎるなと言われたのだから、距離をとった方がいいのだと思う。
それに何と言っても、相手はお姫様だ。
ただの町娘など、取るに足りない存在かもしれない。
だから、顔合わせに同席してほしいと言われた時も、ある程度の覚悟はしていたのだが。
「初めまして、エミリア。堅物の兄だけど、よろしくね」
「アルバート様……いえ、ロイ様ですわね。こちらこそ、不束ですがよろしくお願い致します」
王の間にも夫となる王やその弟に気後れすることなく、彼女の声はよく通った。
恭しく頭を下げると、綺麗に巻かれた髪がふわりと揺れる。
(うわぁ……本当にお姫様だ)
自分とは違い、触れてみれば指通りもいいのだろう。
零れそうな大きな瞳は青く澄んでおり、赤い唇は何とも艶めいている。
「では、お隣の方が……」
どう見ても、ジェイダは異色の存在だ。
その言い方は、気を遣ってくれたのだろう。
「うん、ジェイダだよ。僕の婚約者……になってくれればいいと思っ……」
「素敵!! 」
ロイの牽制を遮り、エミリアは声を上げた。
「お目にかかるのを楽しみにしていたんです! 」
それどころか、ロイなど眼中にないと言うように彼を押し退けると、あれよと言う間に抱きついてきた。
「私に……ですか? 」
つっけんどんにされるとか、悪口を言われることすら覚悟していたのに。
何しろ自分より早く、夫の近くにいるのだから、いい気はしないだろうと。
「ええ。祈り子なんてお辛いでしょうに……でも、ロイ様と出逢って恋に落ちて。そんなお話もお聞きしたいし、その、お友達になれたらと」
ロイを放って、ただの娘に対してモジモジしているエミリアに、ジェイダは呆気に取られていた。