翡翠の森
「あ……ごめんなさい。突然言われても、困りますわね。わたくし、ちょっと変わってて……友達も少ないものですから、つい」
ぽかんとしていると誤解したのか、エミリアがそう付け足した。
(……ちょっと……)
(……! ロイ……!! )
失礼なロイに肘鉄を食らわせると、一度呻いたきり静かになった。
「同じ年頃の女の子がいると聞いて、嬉しかったんです。だから、もしご迷惑でなければ……」
(可愛い人だな)
初対面で抱きついておきながら、今更そんなことを言うエミリアが憎めない。
「もちろん、私でよければ」
(怖くないのかしら)
「……っ、本当!? よかった……ジェイダ様? もしかしたら、ご無理をなさっているのでは…」
心配そうに尋ねられ、慌てて首を振る。
(こっちが自然なことなのに、疑うなんて)
「いえ、そうではなくて。……私を怖がる人もいるので」
自分で容認するような発言に、唇を噛み締める。
(間違っているのに。それを当たり前にしちゃ、ダメなのに)
「……ジェイダ様」
と、いきなり、エミリアの滑らかな手が触れた。
「あの……? 」
何をしているのだろう。
彼女の白い手は細く、柔らかい。
その女性らしい感触に、戸惑ってしまう。
「やだ。私の方が大きいですね。怖くありませんか? 力だって、こう見えて強いかも」
小首を傾げる仕草は、どう見ても可愛らしいお嬢様。
力が強いなんて、嘘としか思えない。
(ロイやアルフレッドは、ああ言ったけど)
単純かもしれないが、信じてみたい。
疑うよりも、心を寄せて見てみたい。
国の為には甘くても、そう思ってしまうのだった。
「今日は疲れただろう。そのまま、ジェイダと過ごしてはどうだ? 」
「……っ、申し訳ありません」
夫の言葉を皮肉と受け取ったのか、エミリアは力なく伏せてしまった。
「いや……言葉通りの意味だ。私とロイは、この後用があるからな。一人では心細いだろうし、何と言っても貴女は王妃だ。ジェイダの側にはジンもいるから、私の不在時は二人でいてくれると安心なのだが」
エミリアは既に、裕福な家の息女ではない。
表には見えずとも、反国王派は存在する。
彼女もまた、絶対に安全とは言えないのだ。
「じゃあ、エミリア様は私と一緒に」
「頼む」
短い返事にも馴れたジェイダは、エミリアを連れ外に出た。