翡翠の森

「あ……ごめんなさい。突然言われても、困りますわね。わたくし、ちょっと変わってて……友達も少ないものですから、つい」


ぽかんとしていると誤解したのか、エミリアがそう付け足した。


(……ちょっと……)

(……! ロイ……!! )


失礼なロイに肘鉄を食らわせると、一度呻いたきり静かになった。


「同じ年頃の女の子がいると聞いて、嬉しかったんです。だから、もしご迷惑でなければ……」


(可愛い人だな)


初対面で抱きついておきながら、今更そんなことを言うエミリアが憎めない。


「もちろん、私でよければ」


(怖くないのかしら)


「……っ、本当!? よかった……ジェイダ様? もしかしたら、ご無理をなさっているのでは…」


心配そうに尋ねられ、慌てて首を振る。


(こっちが自然なことなのに、疑うなんて)



「いえ、そうではなくて。……私を怖がる人もいるので」


自分で容認するような発言に、唇を噛み締める。


(間違っているのに。それを当たり前にしちゃ、ダメなのに)


「……ジェイダ様」


と、いきなり、エミリアの滑らかな手が触れた。


「あの……? 」


何をしているのだろう。
彼女の白い手は細く、柔らかい。
その女性らしい感触に、戸惑ってしまう。


「やだ。私の方が大きいですね。怖くありませんか? 力だって、こう見えて強いかも」


小首を傾げる仕草は、どう見ても可愛らしいお嬢様。
力が強いなんて、嘘としか思えない。


(ロイやアルフレッドは、ああ言ったけど)


単純かもしれないが、信じてみたい。
疑うよりも、心を寄せて見てみたい。
国の為には甘くても、そう思ってしまうのだった。


「今日は疲れただろう。そのまま、ジェイダと過ごしてはどうだ? 」

「……っ、申し訳ありません」


夫の言葉を皮肉と受け取ったのか、エミリアは力なく伏せてしまった。


「いや……言葉通りの意味だ。私とロイは、この後用があるからな。一人では心細いだろうし、何と言っても貴女は王妃だ。ジェイダの側にはジンもいるから、私の不在時は二人でいてくれると安心なのだが」


エミリアは既に、裕福な家の息女ではない。
表には見えずとも、反国王派は存在する。
彼女もまた、絶対に安全とは言えないのだ。


「じゃあ、エミリア様は私と一緒に」

「頼む」


短い返事にも馴れたジェイダは、エミリアを連れ外に出た。


< 97 / 323 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop