翡翠の森
ジェイダに心から『よかった』と言ってあげられないことに、罪悪感を覚えずにはいられない。
「とにかく、今は見守るほかないね。お妃様のお披露目も終わったことだし、各々どう出るやら」
「反故にはさせん」
「これからだよ。まだ先は長い」
珍しく兄の方が意気込んでいる。
いつもと逆の会話に、こちらは少し落ち着いてきた。
(……そう、ここからだ)
大事な一歩を踏み出すきっかけは、不快極まりないものだった。
だからこそ、無駄にするつもりはない。
「さて。そろそろ僕は、ジェイダとイチャイチャしてくるよ。もう少し押してみたら、大人の階段を上れたりして……」
ぷっと吹き出すのが聞こえて睨んだが、兄は素知らぬ顔だ。
「……なに」
「いや? 別に何も」
「あー、そうですよ。まったくもって、手なんか出せやしない。なまじ好感触になってきたから、強引になれないんだよね。こんなことなら、キスするって言っときゃよかった」
「……意味が分からんが。ロイ」
ちょうどいい。
こんな愚痴を聞かせることができるのは兄だけだ。この際吐き出してしまおうとすると、彼は雑に手を振り、早々に中断させ言った。
「私の性格も、褒められたものではない。……お前だけじゃないさ」
「そんなの分かりきってるさ。兄さんのことくらい」
ふいに掛けられた優しさに目を丸め、感謝しながら唇の端を持ち上げてみせる。
(……あの時も、そうだったな)
まだ、この名がアルバートだった頃。
不器用な兄は、いつもこうして手を差し伸べてくれていた。
――「一緒だ」と。