悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました
短い返答に背を向ける。
さよならは口にできなかった。素っ気なく、想像以上にあっさりとした挨拶が寂しく感じて心が痛い。
なにを期待していたの。やっぱり彼は引き止めもしないし、出会ってからこれまでの思い出を懐かしむ様子もない。
「エスター」
扉から出た瞬間に名前を呼ばれた。
振り返ると、自然と閉まりゆく扉の先で視線が交わる。
「過去になにがあろうと、お前は笑顔がよく似合う。これからは偽りではない生涯の伴侶を見つけて、幸せになれ」
扉が隔たり、姿が完全に見えなくなった。
こんなに胸を打つセリフを贈るなんてずるいわ。一生忘れられない心の支えになったらどうするの。
あなた以上の伴侶なんて、きっと他にいない。国外追放された悪女にはもったいないほど素敵なヒトだった。
会えなくなってから気持ちを自覚するのは遅すぎる。
恋とか愛とか、そんなものに振り回される人生はごめんだったはずなのに、今、感情がぐちゃぐちゃになっているのは、私が本気で彼を愛してしまったからだ。
いつも容姿ではなく中身を見てくれて、勇気づけるまっすぐな言葉をくれた。身の危険が迫ったら自分をかえりみずに助けてくれる。
冷たくて無愛想で非情な一面もあるけど、本当の彼は誰よりも優しくて温かい悪“役”だ。
古城の門を出た途端、初めて涙がこぼれた。