悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました


 心が割れそうに痛む。

 彼のセリフ通り、古城を出た私はただの一般人だ。それでも、大切な人たちがいなくなるかもしれないと知って、居ても立ってもいられなかった。

 婚約者とか、そういうのは関係ない。

 危険をおかす私を突き動かしたのは、消すことのできない強い想いだ。


「あなたを愛しているから、ここに来たんです」


 ぼやけた視界で、黄金の瞳が揺れた。

 綺麗とはお世辞にも言えない格好で、望みのない告白を口にする。もう我慢はできなかった。

 自分に出来ることがあるなら、なんでもしたかったの。それであなたが救われるならって、痛みも覚悟してきたんだもの。

 生死を分ける緊張から解かれた途端、自分の不甲斐なさと罪悪感でこらえていた涙があふれる。


「ごめん、なさい」


 頬に雫がつたうと同時に、強く強く抱きしめられた。

 あぁ、温かい。生きてる。

 たくましい腕の中で子どものように泣いた。申し訳なさでいっぱいなのに、生きてまた会えたことが嬉しいと思っているのは罪なのか。

 首の傷に彼の柔らかな舌が触れ、ちくりと痛みが走った。やっと痛覚がまともに戻ったと気づく。

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