悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました
早く切り上げたくてベンチを立つ。
背中から、「気が変わったらいつでも言ってくれ。週末は市場にいるから」とグレイソンの声がした。
あぁ、せっかくベルナルド様のことを考えて心が晴れやかだったのに、どしゃ降りに遭った気分だ。
レドウ草が手に入れば、大好きな人の命が救われるかもしれない。しかし、グレイソンの条件をのめば古城にはいられなくなる。
ずっとそばにいたいと思うのは私のわがまま?せっかく気持ちが通じ合ったのに、離れるのは考えられない。
「お待たせエスターさん。ごめんね、思ったよりも話し込んじゃって」
市場からドミニコラさんが駆けてきた。暗い表情の私に、目の前で赤い瞳が揺れる。
「どうしたの?なにかあったのかい?」
「……いえ、少し陽の光を浴びすぎて疲れたのかもしれません」
「それは大変だ。古城に帰って水分を取らないとね」
夏の日差しのせいにして、どうしようもなく苦しい気持ちをごまかす。
胸の中は心がイバラに巻きつかれたように痛み、描きかけていた未来がぼやけて消えていく気がした。