悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました


 ステップに集中したいのに、彼を意識するあまり頭が真っ白になっていく。

 そのとき、動きが止まった。

 どんなに迷惑をかけられても怒らなかった彼が、眉を寄せている。


「なぜ、いつまで経ってもぎこちない?肩の力を抜いて身を任せろと言っている。そんなに信用できないか?」


 まずい。礼を欠いた。

 せっかく付き合ってくれているのに、相手が上の空だったら気分を悪くして当然だ。なんて伝えればいい?


「違うんです。信用とか、そういうのではなくて」

「集中できないなら、今夜はやめだ」


 ぱっと手を放して背を向けられた。彼は、それから一言も喋らずにホールを出て行く。

 ひとり残され、申し訳ない気持ちと無力感が込み上げる。

 怒らせちゃった。彼の前では、気持ちをうまく口にできずにどうしても萎縮してしまう。どうすればいいんだろう。

 その日は、沈んだ気分のままベッドに潜り込んだ。

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