悪女のレッテルを貼られた追放令嬢ですが、最恐陛下の溺愛に捕まりました
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 夜のダンスホールには、ふたつの影があった。てっきり怒って相手をしてくれないかもと心配していたが、彼はちゃんと来てくれた。

 ラフなシャツ姿は、プライベートの時間をわざわざ割いてくれているのが伝わってきて落ち着かない。


「ベルナルド様。昨日はすみませんでした。ちゃんと切り替えて集中します」


 頭を下げて謝罪すると、思わぬ返答が来る。


「今日は踊らない」


 呼吸を忘れるほどの衝撃だ。言い放たれたセリフに迷いはない。

 どうして?せっかく来てくれたのに。たしかに私は至らぬ点だらけだが、練習二日目で愛想を尽かされたの?

 優雅に歩きだした彼はステンドグラスの窓枠に腰掛けた。表情ひとつ変えずに、手を伸ばされる。


「来い」


 いったい、どういうつもり?

 わけもわからず歩み寄ると、力強く腕をとられた。引っ張られてそのまま倒れるが、悠々と支えた彼は私を膝の上に乗せたまま抱きしめる。


「な、な、なにを」

「お前は俺を意識しすぎる。この距離に慣れろ。ダンスはそれからだ」

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