追放された聖女はもふもふとスローライフを楽しみたい！～私が真の聖女だったようですがもう知りません！～

無視をされていると思ったのか、男――テオが声を荒らげる。

「聞いているのか！」

「はいはい、聞こえていますよ。料理につばが飛んだら困るので、ちょっと黙ってくださいね」

揚がった肉の串カツに手作りのソースを付け、テオの口に放り込む。これで静かになるだろう。虚を突かれた彼は串カツを突っ込まれた状態でプルプル震えていた。

すぐにテオの体から、ピョコンと灰色の耳と尻尾が飛び出す。

続いて彼は串を手に取り、次々に刺さっている肉を飲み込み始めた。

「う、うまい!!」

あっという間に一本を平らげ、物欲しそうに揚がった串カツを見つめるテオ。

しかし、人間相手におかわりを強請るのは、プライドが許さないようだ。強面だけれど、なんだか可愛い。

どうしようかと考えていると、店の前を懐かしい人々が通りかかった。

彼らはテオと同じ衛兵の制服を身につけている。

「あ、聖女様じゃないですか！　お久しぶりです！」

「転生して魔王城に迎えられたって噂、本当だったんですねえ。それにしても、見た目が全く変わっていませんねぇ」

声をかけてくれたのは、前世で食堂を開いていたときの常連さんたちだった。聖女食堂が流行るきっかけを作ってくれた魔族の兵士もいる。

「お久しぶりです。皆さん、お元気そうで何よりです」

「百年ぶりくらいですかね。こうして元気で働けるのも、聖女様のおかげですよ。あなたが、命を賭して我々を守ってくださったから」

「そうですよ、聖女様。あなたと前魔王陛下の死がどれほどショックだったか……」